SES多重下請け構造とは|案件が段階を経て流れる仕組み

SESの多重下請け構造とは、エンドユーザーから元請け、1次請け、2次請けへと、ひとつの案件が複数の会社を段階的に経由して流れていく取引の形を指します。

商流が深くなるほど、条件は経由のたびに書き換わります。Dot Linkが処理したメールの実データでは、商流を具体的に判定できたのは全体の19.5%でした(2026年3月〜7月、N=49,478件)。

この記事はSES企業の営業担当の方に向けて、この構造がなぜ存在し、商流が深くなったときに営業の現場で何が起きるかを整理します。

構造の善し悪しを論じるのではなく、所与の前提として扱ったうえで実務をどう成立させるかという立場で書いています。

エンドユーザーから末端までの段階

多重下請け構造の基本形は、システムを実際に使うエンドユーザーを起点に、元請け、1次請け、2次請け、3次請けと段階が連なる形です。

各社は自社が直接契約している上下の1社とやり取りし、案件や人材の情報を次の段階へ渡していきます。

エンドユーザーに近い側を「商流が浅い」、末端に近い側を「商流が深い」と呼び分けるのが業界の慣用です。

「商流」は段階の並びそのものを指す

SES営業で使う「商流」という言葉は、単なる取引ルートの意味を超えて、段階の並びそのものを指しています。

「貴社まで」「1社先可」といった表現は、どこまでの段階なら受け入れられるかという条件であり、案件そのものの前提条件です。

つまり商流は、単価やスキル要件と並ぶ取引条件の一部として扱われています。

多重下請け構造が生まれる構造的な理由

この構造が生まれるのは、案件の需要が大きく変動する一方で、各社が抱えられる人員の数には上限があるためです。

需要と供給の間にできた差を、複数の会社が段階的に埋めていった結果が今の形になっています。

批判の対象として語られることも多い構造ですが、成り立ちを見ると業務上の合理性から出てきたものだと分かります。

需要の波に合わせて人員を抱えきれない

システム開発の案件量は時期によって大きく上下し、必要な技術者の数も同じように動きます。

元請けが常時ピークに合わせた人員を自社で抱えると、閑散期には固定費だけが残ります。

一方で必要なときだけ外部から調達する形にすれば、変動を吸収できます。

この調達を担う会社が段階的に連なることで、需要の波が業界全体に分散される仕組みになっています。

探す役割と抱える役割が分かれている

多重下請け構造では、技術者を「探す」役割と「抱える」役割が別々の会社に分かれています。

エンドユーザーに近い会社は要件定義や大規模案件の獲得に強みを持ち、末端に近い会社は技術者の採用と定着に強みを持つことが多くあります。

得意分野が違う会社が段階を分けて連なるのは、それ自体は分業として自然な形です。

段階ごとに担っている機能が違う

各段階が単に情報を横流ししているわけではなく、それぞれ担う機能があります。

案件の要件を実装可能な単位に分解する、複数社から候補を集めて絞る、契約と請求の窓口を1本化する、といった役割が段階ごとに置かれています。

この機能があるからこそ段階は残っており、段階の数だけ関与する会社の役割があるという前提で見ると、構造の理解がずれにくくなります。

商流が深くなると営業実務に起きること

商流が深い位置で営業をすると、案件の良し悪しを判断する以前に、条件そのものが確かめにくくなります。

具体的には、条件の変質、相手の立ち位置の不透明さ、判断材料の欠落、意思決定の遅れという4つの形で現れます。

いずれも担当者の経験や注意力の問題ではなく、段階が増えるという構造から自動的に生まれる制約です。

以降の4つの見出しで、それぞれが実務でどう見えるかを順に整理します。

条件が段階ごとに変質する

商流が深くなって最初に効いてくるのは、単価や稼働条件が経由するたびに書き換わり、元の条件が分からなくなることです。

各社が自社の取り分と契約条件を反映させて次へ渡すため、末端に届く頃には最初の条件とは別の内容になっています。

営業担当の方が見ているのは、常に「何度か書き換えられた後の条件」です。

単価は経由するたびに書き換わる

単価は段階を経るたびに調整され、末端に届く金額とエンドユーザーが支払う金額は一致しません。

これは中間の各社が機能を担っている以上、当然に起きることです。

問題になるのは差額そのものではなく、提示された単価がどの段階の水準なのか分からないまま提案の判断をすることにあります。

同じ金額が提示されていても、浅い商流での提示と深い商流での提示では、案件の性質も交渉余地も違います。

稼働条件と商流制限も伝わる過程で変わる

書き換わるのは単価だけではありません。

リモート可否、稼働開始日、面談回数、そして「どこまでの商流なら受け入れるか」という制限そのものも、伝わる過程で表現が変わります。

元は「1社先まで可」だった条件が、途中の段階で「貴社まで」と厳しく書き直されて届くこともあれば、逆に曖昧な表現に丸められて届くこともあります。

条件が合意と食い違ったまま進んだ場合に起きるトラブルとその防ぎ方は、別の記事で扱っています。

商流トラブル(飛ばし・中抜き)を防ぐには|SES営業の対策

自分から見えるのは隣接する1社だけ

商流の中で自社が確認できるのは、直接やり取りしている隣接1社の情報に限られます。

その1社がさらに誰から案件を受け取っているのかは、相手が説明しない限り把握できません。

自社が商流全体のどこにいるのかを、自力では確定できない状態が常態になります。

その先が誰なのかは本人の説明に依存する

隣接する1社の向こう側を知る手段は、実質的に相手への確認しかありません。

相手が正確に説明してくれれば把握できますが、相手自身もさらにその先を見えていない場合があります。

つまり、商流の全体像は誰か1社が持っているものではなく、各社が自分の周辺だけを知っている状態で流通しています。

同じ「1社先可」でも指す範囲が違う

相手の立ち位置が見えないことは、条件の解釈にもそのまま影響します。

「1社先可」という同じ表現でも、相手が2次請けなのか4次請けなのかで、実際に許容される範囲はまったく別のものになります。

自社が想定していた段階と相手の実際の段階がずれていれば、条件を正しく読んだつもりでも前提から食い違います。

判断に必要な情報が段階を経るほど届かなくなる

段階を1つ経るごとに情報は要約され、提案するかどうかを決めるための材料が薄くなっていきます。

各社が自社にとって必要な部分だけを残して次へ渡すため、削られた情報は末端からは復元できません。

深い商流ほど、少ない材料で判断を求められるという非対称が生まれます。

要約と省略が段階の数だけ重なる

案件の背景、体制、求めるスキルの優先順位といった情報は、段階を経るほど短くなります。

「Java経験3年以上」という1行だけが残り、その裏にあった開発フェーズやチーム構成が落ちる、という形です。

技術者に提示できる情報が少なければ、面談前の期待値調整も難しくなります。

結果として、提案の可否を判断する材料が届かないまま候補を出すかどうか決める場面が増えます。

書かれていないのか確認できていないのか区別できない

情報が薄いとき、それが「もともと条件が無い」のか「途中で落ちた」のかを見分ける手がかりがありません。

商流制限の記載が無いメールを見ても、制限が無いのか、書き忘れなのか、途中の段階で省かれたのかは判断できません。

この見分けがつかないまま経験則で埋めてしまうと、担当者ごとに違う前提でデータが積み上がります。

情報の読み替えが担当者の経験に依存する状態をどう解消するかは、別の記事で整理しています。

新人営業が商流・単価をすぐ覚えられない問題への対処法|SES営業の属人化

意思決定が段階の数だけ遅くなる

商流が深いほど、1つの確認に対する回答が返るまでの時間が伸びます。

確認は隣接する1社にしか出せないため、段階の数だけ往復が積み重なるためです。

案件の可否を決める速さは、社内の判断の速さではなく、商流の長さで決まってしまいます。

確認は往復のたびに1段階ずつしか進まない

「この単価は交渉可能か」という1つの質問でも、答えを持っているのが3段階先であれば、質問と回答はそれぞれ3回ずつ中継されます。

各社の担当者が別の案件も抱えている以上、1段階あたりの滞留時間はゼロにはなりません。

急ぎの案件ほど、この往復が実務上の制約として効いてきます。

回答を待つ間に候補は動く

確認の回答を待っている間も、技術者の稼働先は他社との間で決まっていきます。

条件が確定してから動こうとすると、その頃には候補が埋まっているという場面が起きます。

だからこそ、確認が返る前の段階でどこまで動けるかという判断が、深い商流では重みを持ちます。

商流の深さは受信メールからどこまで見えるのか

受信メールから読み取れる商流の情報は、実データで見ると想定よりかなり限られています。

以下はDot Linkが処理したメールの実データで、いずれもすでに公開している自社の集計値です。

段階数そのものではなく、受け入れ範囲の条件がどれだけ書かれているかという水準の話になります。

商流を具体的に判定できたのは19.5%

商流を具体的に判定できたのは全体の19.5%でした(2026年3月〜7月、N=49,478件)。

残りは記載が見当たらないか、条件として確定できないものです。

つまり受信メールの大半は、商流に関する手がかりが無い状態で届いています。

案件側と人材側で書かれ方が違う

同じ集計を種別で分けると、案件(JOB)側は37.4%、人材(CANDIDATE)側は1.8%でした(2026年3月〜7月、N=49,478件)。

案件メールは商流が取引条件そのものになるため明記されやすく、人材メールはスキルと稼働時期が主役になるため書かれにくい、という非対称が数値に表れています。

人材側の商流はほぼ書かれないという前提で運用を組むほうが、実態に合います。

商流と単価の判定と「不明」の扱いは、姉妹記事で詳しく解説しています。

商流・単価をメールから自動判定する方法|見落としを防ぐには

書かれていても表記は2,738通り

商流の記載を別途集計すると、生テキストの書き方は2,738通りに分かれていました(2026年3月〜8月、N=16,115件)。

これをAIで抽出してルールで正規化すると、最終的に6種類のカテゴリへ整理されます。

書かれているかどうかという問題の手前に、書かれ方がそろわないという問題が重なっている状態です。

表記ゆれの実態と正規化の流れは、こちらでまとめています。

商流表記は本当は何通りある?メールの表記ゆれの実態

構造は変えられないが受け取り方は揃えられる

多重下請け構造そのものを1社の判断で変えることはできませんが、届いた情報の受け取り方をそろえることはできます。

段階が何層あるかは選べなくても、手元に届いた情報をどう解釈するかという工程は自社の中にあります。

Dot Linkはこの後者だけを担う仕組みで、いつもの営業メールの配信リストにアドレスを1つ足すだけで導入できます。

根拠がなければ「不明」のまま扱う

Dot Linkは商流・単価をメール本文から自動抽出し、根拠が見当たらない場合は推測で埋めず「不明」として扱います。

商流が書かれていないメールが大半である以上、埋めないことがそのまま判断材料の保全になるという考え方です。

「不明」と明示されていれば、確認の一手を入れる対象がその案件だけに絞られます。

表記ゆれを正規化して同じ物差しに乗せる

抽出した商流表記はAIで正規化され、比較可能なカテゴリの形になります。

同じ条件が同じ表現になる状態が作れると、案件と人材を同じ基準で突き合わせられます。

担当者ごとに読み替えの基準がぶれるという問題も、正規化の工程に寄せることで小さくできます。

商流の段階そのものを解消するものではない

正直に書くと、Dot Linkは多重下請け構造を浅くするものではありません。

段階の数も、間に入る会社の顔ぶれも、条件が書き換わること自体も変わりません。

変えられるのは、届いた情報を同じ基準で受け取るという一点だけです。

その一点でも、商流が深い位置で判断する営業担当の方にとっては、材料の質が変わります。

多重下請け構造を前提に営業実務を組み立てる

多重下請け構造は無くならない前提で、そのうえで実務を成立させるという構えが現実的です。

商流が深くなるほど条件は変質し、相手の立ち位置は見えず、判断材料は薄くなり、意思決定は遅れます。

この4つは構造から生まれる制約なので、担当者が気をつけることでは解消できません。

だからこそ、書かれていない情報を推測で埋めないことと、書かれている情報を同じ基準に寄せることを、仕組み側に持たせる意味があります。

自社に届いている案件・人材メールで商流がどこまで読み取れるのか確かめたい方は、まず配信リストにアドレスを1つ足して結果を見てみてください。

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よくある質問

商流が深い案件は扱わないほうがよいですか

深さそのものを避ける必要はなく、条件が確かめられるかどうかで判断するのが実務的です。

商流が深くても、単価と受け入れ範囲が明確に示されていて、確認への回答が返ってくる相手であれば取引は成立します。

逆に浅い商流でも、条件が曖昧なまま話が進めば同じ問題が起きます。

深さは判断材料の1つであって、それ単体で可否を決める基準にはなりません。

商流の段階数はどうやって確認すればよいですか

隣接する1社に直接聞く以外の確実な方法はありません。

自社から見えるのは直接やり取りしている相手までで、その先は相手の説明に依存します。

そのため、段階数を正確に把握することを目標にするより、受け入れ範囲の条件が明示されているかどうかを確認の基準に置くほうが実務では機能します。

Dot Linkが判定しているのも段階数そのものではなく、メール本文に書かれた受け入れ範囲の条件です。

多重下請け構造そのものがなくなる可能性はありますか

短期的には想定しにくい形です。

この構造は需要の変動と役割分担から生まれたもので、各段階がそれぞれ案件獲得・要件分解・採用といった機能を担っています。

機能が必要とされる限り、段階を担う会社も残ります。

そのため対策は構造の解消ではなく、構造がある前提で情報の受け取り方をそろえる方向に置くのが現実的です。

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