IT人材不足がSES業界に与える影響|2030年の試算は3つに分かれる

IT人材不足は確定した未来ではなく、市場の伸びと労働生産性の前提によって3通りに分かれる試算です。

2030年のIT人材不足は、高位シナリオで約79万人、中位シナリオで約45万人、低位シナリオで約16万人と試算されています(経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」2019年4月公表)。

この記事はSES企業の営業担当の方に向けて、一次資料が実際に何を示しているかを確認し、それが案件と人材のマッチングという営業実務にどう効いてくるかを整理します。

結論を先に書くと、営業実務で重くなるのは人数の総量ではなく、求められるスキルと供給されるスキルのずれのほうです。

「2030年に79万人不足」だけが独り歩きしている

IT人材不足の文脈で最も引用される「79万人」は、3つのシナリオのうち最も需要が伸びる高位シナリオの数値です。

同じ資料には中位で約45万人、低位で約16万人という試算も併記されており、79万人だけを唯一の予測として扱うのは資料の読み方として正確ではありません。

営業の現場で市況を語るときも、幅のある試算だと知って使うかどうかで、判断の質が変わります。

79万人は高位シナリオの数値である

高位シナリオはIT関連市場の年平均成長率を約4.4%と置いた場合の試算です。

この4.4%は、2018年10月にIT企業3000社・ユーザー企業3000社を対象に実施され2173社から回答(回答率36.2%)を得た企業向けアンケートに基づいています。

回答結果から短期から長期の需要の伸びは年率9%から3%と見込まれ、その平均が約4.4%として置かれました。

つまり79万人は「企業が自己申告した需要見通しが、そのまま最も強い形で実現した場合」の数値です。

中位45万人・低位16万人という幅がある

中位シナリオは高位と低位の中間として、低位シナリオは民間の市場予測等に基づいて設定されています。

高位で約79万人、低位で約16万人ですから、どのシナリオを前提にするかで不足の規模感がまったく別のものになることになります。

市況を語る材料として使うのであれば、どのシナリオの話をしているのかを明示するほうが誠実です。

経産省の試算が実際に示している需給ギャップ

一次資料が中心に置いているのは中位シナリオで、2030年の需給ギャップは45万人と試算されています。

前提は、需要の伸びが年平均2.7%程度、労働生産性が年0.7%上昇という置き方です。

以下は資料に掲載されている需給ギャップの推移です。

需給ギャップは2018年22万人から2030年45万人へ

2018年 2020年 2025年 2030年
22万人 30万人 36万人 45万人

※需要の伸び年平均2.7%程度(中位)、労働生産性年0.7%上昇を前提とした試算値

参考として、前回調査にあたる2016年「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」における2030年の値は59万人でした。

前回59万人から今回45万人へと下方修正されている点も、この数値が固定的な予測ではないことを示しています。

生産性が年3.54%上昇すれば需給は均衡する

この試算で最も見落とされているのが、資料自身が書いている但し書きです。

資料には年3.54%の労働生産性上昇を実現した場合には、2030年時点のIT人材の需要と供給は均衡することが見込まれると明記されています。

つまり不足は避けられない前提ではなく、生産性が伸びれば消える可能性のある差分として扱われています。

各国の情報通信業の労働生産性上昇率

資料には参考値として、各国の情報通信業の労働生産性上昇率も掲載されています。

1995年以降 2010年代
米国 5.4% 2.2%
ドイツ 4.2% 4.2%
フランス 3.1% 2.3%
日本 2.4% 0.7%

※日本生産性本部「労働生産性の国際比較2017年版」をもとにみずほ情報総研作成

日本の2010年代は0.7%で、均衡に必要とされる3.54%とはかなりの開きがあります。

均衡が理論上ありうるとしても、それが自動的に実現する前提では置きにくいという読み方になります。

IT人材の供給は2030年まで増える見通しである

ここは誤解が多いところですが、資料はIT人材の供給が減るとは書いていません。

「我が国の労働人口及び若年層人口は全体としては減少するものの、IT人材供給については、2030年まで増加が見込まれる」というのが資料の記述です。

不足が生じるのは供給が細るからではなく、需要の伸びが供給の伸びを上回るからです。

供給は103万人から113万人へ増加する

2018年 2020年 2025年 2030年
103万人 106万人 111万人 113万人

2018年の103万人から2030年の113万人へと、供給側は一貫して増える見通しです。

母集団そのものが縮んでいくという構図ではありません。

需要はシナリオごとに伸び方が大きく違う

シナリオ 2018年 2020年 2025年 2030年
高位(約4.4%) 125万人 147万人 169万人 192万人
中位(約2.7%) 125万人 136万人 147万人 158万人
低位(約1%) 125万人 126万人 128万人 130万人

2018年の需要は3シナリオとも125万人で共通し、2030年には192万人から130万人まで分かれます。

供給が113万人まで増えても、高位の192万人には届かず、低位の130万人であれば差は小さくなります。

供給の増加ペースを需要の増加ペースが上回るかどうかが、不足の大きさを決めているという構図です。

SESの取引構造そのものが営業実務にどう効くかは、別の記事で整理しています。

SES多重下請け構造とは|商流が深くなるほど営業実務に何が起きるか

総数よりも効いてくるのはスキルのずれ

この調査で営業実務に最も関係するのは、不足の総数ではなく、その内訳が転換の進み方で大きく変わるという部分です。

資料は2030年時点の需給ギャップを、従来型IT人材と先端IT人材に分けて示しています。

Reスキル(従来型IT人材から先端IT人材への転換)がどれだけ進むかによって、同じ45万人の中身がまったく別の形になります。

Reスキル率で不足の内訳が入れ替わる

Reスキル率 従来型IT人材 先端IT人材 合計
2〜6% 18万人 27万人 45万人
2% 0万人 45万人 45万人
1% △10万人 55万人 45万人

※2030年時点、中位シナリオ2.7%・労働生産性年0.7%上昇の前提。△は供給数が需要数を上回る(供給過剰)ことを示す

Reスキル率が2〜6%であれば従来型18万人・先端27万人という配分ですが、2%では従来型のギャップが0万人になります。

転換が進まないと従来型は供給過剰になりうる

最も極端なのがReスキル率1%の行です。

この場合、従来型IT人材は10万人の供給過剰となる一方で、先端IT人材は55万人不足するという分岐が示されています。

同じ年、同じ市場の中で、余る領域と足りない領域が同時に発生するということです。

先端ITサービス市場はIoTおよびAIを活用したITサービスの市場、従来型ITサービス市場は従来型ITシステムの受託開発や保守・運用サービス等に関する市場と定義されています。

合計45万人はどのパターンでも変わらない

表の3行はいずれも合計45万人で一致します。

総数は同じでも内訳が入れ替わるという点が、この表の要点です。

人材不足を「人が一律に足りない」という一枚の絵で捉えていると、この入れ替わりを見落とします。

営業の現場で起きるのは総数の変化ではなく、条件のかみ合わなさの変化のほうです。

SES営業の実務に何をもたらすか

スキルのずれが広がるほど、SES営業の仕事は「人を探す」から「条件に合う人を探し当てる」へと重心が移ります。

案件側が求めるスキルセットと、手元にある人材の経歴が一致する確率が下がるためです。

母数が増えても、条件が合う組み合わせが増えるとは限りません。

案件と人材の条件がかみ合う確率が下がる

先端領域の案件が増える一方で従来型の人材が余る局面では、届いた案件メールと届いた人材メールの間で条件が一致しにくくなります。

同じ件数の案件と人材を突き合わせても、成立する組み合わせの数は市況によって変わります。

つまりメール1件あたりの成立確率が下がる前提で、営業の動き方を組み立てる必要があります。

1件の見落としが持つ重みが増す

成立確率が下がるほど、成立しうる1件を取りこぼしたときの損失は相対的に大きくなります。

条件が合う組み合わせがそもそも少ないため、埋め合わせが利きにくいからです。

受信箱に届いていたのに開かれなかった1通、条件を読み違えたまま見送った1件が、そのまま機会損失として残ります。

手作業での突き合わせが追いつかなくなる

条件が細かくなるほど、目視での突き合わせに必要な確認項目は増えます。

商流、単価、スキル、稼働時期、勤務地といった項目を1件ずつ人手で照合していると、届いた量に処理が追いつきません。

営業担当の方の経験値が高くても、時間という制約は変わらないためです。

見落としや属人化がどこで発生するかは、こちらで整理しています。

SES営業の悩みあるある|見落とし・属人化・手作業からどう抜け出すか

マッチングが難しくなる前提で届いた情報を扱う

Dot Linkが担うのは、条件が合いにくくなる前提のもとで、すでに手元に届いている情報を取りこぼさないという工程です。

いつもの営業メールの配信リストにアドレスを1つ足すだけで導入でき、案件・人材メールから商流・単価などの条件を自動抽出します。

抽出済みの条件で案件と人材を突き合わせ、候補を提示するところまでを扱います。

根拠がなければ推測せず「不明」として扱う

条件の抽出では、本文に根拠が見当たらない項目を推測で埋めず「不明」として扱います。

条件がかみ合いにくい市況ほど、埋めなかった項目が確認すべき対象として残ることに意味があります。

推測で埋めた条件で突き合わせると、合っていない組み合わせが合っているように見えてしまうためです。

抽出済みの条件で突き合わせる

自由文のメールから直接マッチングするのではなく、抽出して整えた条件同士を比較します。

商流や単価といった外せない条件で絞ってから、スキル等で評価するという順序です。

この2段階の考え方は、別の記事で仕組みとして解説しています。

AIマッチングはどう案件と人材を結びつけるのか|2段階フィルタの仕組み

人材不足そのものを解消する仕組みではない

正直に書くと、Dot LinkはIT人材不足を解消するものではありません。

登録される人材の母数を増やすものでもなく、先端IT人材を生み出すものでもありません。

すでに手元に届いている情報を取りこぼさないための仕組みであり、効くのはその一点だけです。

不足が続く市況では、母数を増やせない以上、届いた情報の扱い方で差がつくという考え方に立っています。

この試算は2019年4月時点のものである

ここまで引用した数値はすべて、2019年4月に公表された試算です。

2026年の現在から見ると7年前の資料であり、表に含まれる2018年・2020年・2025年の数値も実績ではなく当時の試算値として置かれたものです。

数値を社内資料や商談で使う場合は、この時点情報を必ずセットで示すことをおすすめします。

数値を使うときは出典と時点を添える

「2030年に79万人不足」という表現だけを切り出すと、どのシナリオの数値か、いつの試算かが失われます。

出典(経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」)、公表時期(2019年4月)、シナリオ(高位)の3点を添えれば、受け手が自分で判断できます。

最新の需給状況については、各自で新しい公表資料を確認してください。

まとめ|不足の総数より内訳の変化を見る

IT人材不足は3つのシナリオで示された幅のある試算であり、2030年の不足数は高位で約79万人、中位で約45万人、低位で約16万人です。

供給は113万人まで増える見通しで、不足が生じるのは供給が減るからではなく需要の伸びがそれを上回るからです。

そして年3.54%の労働生産性上昇が実現すれば需給は均衡すると、資料自身が書いています。

SES営業にとって重いのは総数ではなく、Reスキルの進み方によって従来型が供給過剰になる一方で先端が55万人不足するという、スキルのずれのほうです。

条件がかみ合いにくくなるほど、届いた1通を取りこぼさない体制の価値が上がります。

自社に届いている案件・人材メールから条件がどこまで読み取れるのか確かめたい方は、まず配信リストにアドレスを1つ足して結果を見てみてください。

Dot Linkで案件・人材メールの条件抽出を確かめる

無料登録して詳細を見る →

よくある質問

「2030年に79万人不足」という数字はそのまま使ってよいですか

使う場合は高位シナリオの数値であることを併記してください。

経済産業省の試算は高位(約79万人)・中位(約45万人)・低位(約16万人)の3通りで示されており、79万人は最も需要が伸びる前提での値です。

さらに同じ資料には、年3.54%の労働生産性上昇を実現した場合には2030年時点の需要と供給は均衡することが見込まれる、という但し書きもあります。

単一の予測として引用すると、資料が示している幅と条件が抜け落ちてしまいます。

IT人材の供給はこれから減っていくのですか

減りません。

資料は「我が国の労働人口及び若年層人口は全体としては減少するものの、IT人材供給については、2030年まで増加が見込まれる」と記述しており、供給は2018年103万人から2030年113万人へ増える見通しです。

不足が生じるのは、需要の伸びが供給の伸びを上回るためです。

供給が細るという前提で対策を考えると、実態と合わない打ち手になりかねません。

先端IT人材が足りないならSES営業は何を変えればよいですか

案件と人材の条件を突き合わせる工程を見直すのが現実的です。

Reスキル率が1%にとどまる場合、従来型IT人材は10万人の供給過剰となる一方で先端IT人材は55万人不足するという試算が示されており、余る領域と足りない領域が同時に生じます。

この状況では、案件と人材の条件が一致する組み合わせが減るため、1件あたりの成立確率が下がります。

手元に届いている案件・人材の情報を同じ基準で整理し、条件が合う組み合わせを取りこぼさない状態を作ることが、実務として着手しやすい対応にあたります。

参照リンク

IT人材需給に関する調査(概要) — 経済産業省 情報技術利用促進課(平成31年4月公表、PDF)

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